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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

お母さまのお葬いも、とっくに済ましていたのじゃないか。ああ、お母さまは、もうお亡くなりになったのだと意識したら、言い知れぬ凄しさに身震いして、眼がさめた。

ヴェランダは、すでに黄昏だった。雨が降っていた。みどり色のさびしさは、夢のまま、あたり一面にただよっていた。

「お母さま」

と私は呼んだ。

静かなお声で、

「何してるの?」

というご返事があった。

私はうれしさに飛び上って、お座敷へ行き、

「いまね、私、眠っていたのよ」

「そう。何をしているのかしら、と思っていたの。永いおひる寝ね」

と面白そうにお笑いになった。

私はお母さまのこうして優雅に息づいて生きていらっしゃる事が、あまりうれしくて、ありがたくて、涙ぐんでしまった。

「御夕飯のお献立は? ご希望がございます?」

私は、少しはしゃいだ口調でそう言った。

「いいの。なんにも要らない。きょうは、九度五分にあがったの」

にわかに私は、ぺしゃんこにしょげた。そうして、途方にくれて薄暗い部屋の中をぼんやり見廻し、ふと、死にたくなった。

「どうしたんでしょう。九度五分なんて」

「なんでもないの。ただ、熱の出る前が、いやなのよ。