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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
私は二階へ行って、洋間のソファに寝そべって新刊の雑誌を読んでいる直治に、
「お母さまが、お呼びですよ」
というと、
「わあ、また愁歎場か。汝等は、よく我慢してあそこに頑張っておれるね。神経が太いんだね。薄情なんだね。我等は、何とも苦しくて、実に心は熱すれども肉体よわく、とてもママの傍にいる気力は無い」
などと言いながら上衣を着て、私と一緒に二階から降りて来た。
二人ならんでお母さまの枕もとに坐ると、お母さまは、急にお蒲団の下から手をお出しになって、そうして、黙って直治のほうを指差し、それから私を指差し、それから叔父さまのほうへお顔をお向けになって、両方の掌をひたとお合せになった。
叔父さまは、大きくうなずいて、
「ああ、わかりましたよ。わかりましたよ」
とおっしゃった。
お母さまは、ご安心なさったように、眼を軽くつぶって、手をお蒲団の中へそっとおいれになった。
私も泣き、直治もうつむいて嗚咽した。
そこへ、三宅さまの老先生が、長岡からいらして、取り敢えず注射した。お母さまも、叔父さまに逢えて、もう、心残りが無いとお思いになったか、
「先生、早く、楽にして下さいな」