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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

とおっしゃった。

老先生と叔父さまは、顔を見合せて、黙って、そうしてお二人の眼に涙がきらと光った。

私は立って食堂へ行き、叔父さまのお好きなキツネうどんをこしらえて、先生と直治と叔母さまと四人分、支那間へ持って行き、それから叔父さまのお土産の丸ノ内ホテルのサンドウィッチを、お母さまにお見せして、お母さまの枕元に置くと、

「忙しいでしょう」

とお母さまは、小声でおっしゃった。

支那間で皆さんがしばらく雑談をして、叔父さま叔母さまは、どうしても今夜、東京へ帰らなければならぬ用事があるとかで、私に見舞いのお金包を手渡し、三宅さまも看護婦さんと一緒にお帰りになる事になり、附添いの看護婦さんに、いろいろ手当の仕方を言いつけ、とにかくまだ意識はしっかりしているし、心臓のほうもそんなにまいっていないから、注射だけでも、もう四、五日は大丈夫だろうという事で、その日いったん皆さんが自動車で東京へ引き上げたのである。

皆さんをお送りして、お座敷へ行くと、お母さまが、私にだけ笑う親しげな笑いかたをなさって、

「忙しかったでしょう」

と、また、囁くような小さいお声でおっしゃった。