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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

私とチエちゃんは長火鉢の傍にならんで坐って、手をあぶっていた。

「お蒲団をおあてなさい。寒くなりましたね。お飲みになりませんか」

おかみさんは、ご自分のお茶のお茶碗にお銚子のお酒をついで、それから別の二つのお茶碗にもお酒を注いだ。

そうして私たち三人は黙って飲んだ。

「みなさん、お強いのね」

とおかみさんは、なぜだか、しんみりした口調で言った。

がらがらと表の戸のあく音が聞えて、

「先生、持ってまいりました」

という若い男の声がして、

「何せ、うちの社長ったら、がっちりしていますからね、二万円と言ってねばったのですが、やっと一万円」

「小切手か?」

と上原さんのしゃがれた声。

「いいえ、現なまですが。すみません」

「まあ、いいや、受取りを書こう」

ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、の乾杯の歌が、そのあいだも一座に於いて絶える事無くつづいている。

「直さんは?」

と、おかみさんは真面目な顔をしてチエちゃんに尋ねる。私は、どきりとした。

「知らないわ。直さんの番人じゃあるまいし」

と、チエちゃんは、うろたえて、顔を可憐に赤くなさった。

「この頃、何か上原さんと、まずい事でもあったんじゃないの? いつも、必ず、一緒だったのに」