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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
「ユトリロ」
私は、ほとんど無意識にそれを言った。
「ああ、ユトリロ。まだ生きていやがるらしいね。アルコールの亡者。死骸だね。最近十年間のあいつの絵は、へんに俗っぽくて、みな駄目」
「ユトリロだけじゃないんでしょう? 他のマイスターたちも全部、……」
「そう、衰弱。しかし、新しい芽も、芽のままで衰弱しているのです。霜。フロスト。世界中に時ならぬ霜が降りたみたいなのです」
上原さんは私の肩を軽く抱いて、私のからだは上原さんの二重廻しの袖で包まれたような形になったが、私は拒否せず、かえってぴったり寄りそってゆっくり歩いた。
路傍の樹木の枝。葉の一枚も附いていない枝、ほそく鋭く夜空を突き刺していて、
「木の枝って、美しいものですわねえ」
と思わずひとりごとのように言ったら、
「うん、花と真黒い枝の調和が」
と少しうろたえたようにしておっしゃった。
「いいえ、私、花も葉も芽も、何もついていない、こんな枝がすき。これでも、ちゃんと生きているのでしょう。枯枝とちがいますわ」
「自然だけは、衰弱せずか」
そう言って、また烈しいくしゃみをいくつもいくつも続けてなさった。
「お風邪じゃございませんの?」