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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

の静かな気配で、遠くを眺めていらっしゃった。

僕は眼をつぶって、こいしく、こがれて狂うような気持ちになり、瞼の裏から涙があふれ出て、毛布を頭から引かぶってしまいました。

姉さん。

僕がその洋画家のところに遊びに行ったのは、それは、さいしょはその洋画家の作品の特異なタッチと、その底に秘められた熱狂的なパッションに、酔わされたせいでありましたが、しかし、附き合いの深くなるにつれて、そのひとの無教養、出鱈目、きたならしさに興覚めて、そうして、それと反比例して、そのひとの奥さんの心情の美しさにひかれ、いいえ、正しい愛情のひとがこいしくて、したわしくて、奥さんの姿を一目見たくて、あの洋画家の家へ遊びに行くようになりました。

あの洋画家の作品に、多少でも、芸術の高貴なにおい、とでもいったようなものが現れているとすれば、それは、奥さんの優しい心の反映ではなかろうかとさえ、僕はいまでは考えているんです。

その洋画家は、僕はいまこそ、感じたままをはっきり言いますが、ただ大酒飲みで遊び好きの、巧妙な商人なのです。遊ぶ金がほしさに、ただ出鱈目にカンヴァスに絵具をぬたくって、流行の勢いに乗り、もったい振って高く売っているのです。