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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

なおまた慾を言えば、こんな僕の恥ずかしい告白に依って、せめて姉さんだけでも、僕のこれまでの生命の苦しさを、さらに深くわかって下さったら、とても僕は、うれしく思います。

僕はいつか、奥さんと、手を握り合った夢を見ました。そうして奥さんも、やはりずっと以前から僕を好きだったのだという事を知り、夢から醒めても、僕の手のひらに奥さんの指のあたたかさが残っていて、僕はもう、これだけで満足して、あきらめなければなるまいと思いました。道徳がおそろしかったのではなく、僕にはあの半気違いの、いや、ほとんど狂人と言ってもいいあの洋画家が、おそろしくてならないのでした。あきらめようと思い、胸の火をほかへ向けようとして、手当り次第、さすがのあの洋画家も或る夜しかめつらをしたくらいひどく、滅茶苦茶にいろんな女と遊び狂いました。何とかして、奥さんの幻から離れ、忘れ、なんでもなくなりたかったんです。けれども、だめ。僕は、結局、ひとりの女にしか、恋の出来ないたちの男なんです。僕は、はっきり言えます。僕は、奥さんの他の女友達を、いちどでも、美しいとか、いじらしいとか感じた事が無いんです。