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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

姉さん。

死ぬ前に、たった一度だけ書かせて下さい。

……スガちゃん。

その奥さんの名前です。

僕がきのう、ちっとも好きでもないダンサア(この女には、本質的な馬鹿なところがあります)それを連れて、山荘へ来たのは、けれども、まさかけさ死のうと思って、やって来たのではなかったのです。いつか、近いうちに必ず死ぬ気でいたのですが、でも、きのう、女を連れて山荘へ来たのは、女に旅行をせがまれ、僕も東京で遊ぶのに疲れて、この馬鹿な女と二、三日、山荘で休むのもわるくないと考え、姉さんには少し工合いが悪かったけど、とにかくここへ一緒にやって来てみたら、姉さんは東京のお友達のところへ出掛け、その時ふと、僕は死ぬなら今だ、と思ったのです。

僕は昔から、西片町のあの家の奥の座敷で死にたいと思っていました。街路や原っぱで死んで、弥次馬たちに死骸をいじくり廻されるのは、何としても、いやだったんです。けれども、西片町のあの家は人手に渡り、いまではやはりこの山荘で死ぬよりほかは無かろうと思っていたのですが、でも、僕の自殺をさいしょに発見するのは姉さんで、そうして姉さんは、その時どんなに驚愕し恐怖するだろうと思えば、姉さんと二人きりの夜に自殺するのは気が重くて、とても出来そうも無かったのです。