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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
「かず子や、お母さまがいま何をなさっているか、あててごらん」
とおっしゃった。
「お花を折っていらっしゃる」
と申し上げたら、小さい声を挙げてお笑いになり、
「おしっこよ」
とおっしゃった。
ちっともしゃがんでいらっしゃらないのには驚いたが、けれども、私などにはとても真似られない、しんから可愛らしい感じがあった。
けさのスウプの事から、ずいぶん脱線しちゃったけれど、こないだ或る本で読んで、ルイ王朝の頃の貴婦人たちは、宮殿のお庭や、それから廊下の隅などで、平気でおしっこをしていたという事を知り、その無心さが、本当に可愛らしく、私のお母さまなども、そのようなほんものの貴婦人の最後のひとりなのではなかろうかと考えた。
さて、けさは、スウプを一さじお吸いになって、あ、と小さい声をお挙げになったので、髪の毛? とおたずねすると、いいえ、とお答えになる。
「塩辛かったかしら」
けさのスウプは、こないだアメリカから配給になった罐詰のグリンピイスを裏ごしして、私がポタージュみたいに作ったもので、もともとお料理には自信が無いので、お母さまに、いいえ、と言われても、なおも、はらはらしてそうたずねた。