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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
「お上手に出来ました」
お母さまは、まじめにそう言い、スウプをすまして、それからお海苔で包んだおむすびを手でつまんでおあがりになった。
私は小さい時から、朝ごはんがおいしくなく、十時頃にならなければ、おなかがすかないので、その時も、スウプだけはどうやらすましたけれども、食べるのがたいぎで、おむすびをお皿に載せて、それにお箸を突込み、ぐしゃぐしゃにこわして、それから、その一かけらをお箸でつまみ上げ、お母さまがスウプを召し上る時のスプウンみたいに、お箸をお口と直角にして、まるで小鳥に餌をやるような工合いにお口に押し込み、のろのろといただいているうちに、お母さまはもうお食事を全部すましてしまって、そっとお立ちになり、朝日の当っている壁にお背中をもたせかけ、しばらく黙って私のお食事の仕方を見ていらして、
「かず子は、まだ、駄目なのね。朝御飯が一番おいしくなるようにならなければ」
とおっしゃった。
「お母さまは? おいしいの?」
「そりゃもう。私は病人じゃないもの」
「かず子だって、病人じゃないわ」
「だめ、だめ」
お母さまは、淋しそうに笑って首を振った。
私は五年前に、肺病という事になって、寝込んだ事があったけれども、あれは、わがまま病だったという事を私は知っている。