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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

と、入口の方にあたって、武辺らしい者のおとずれも聞えた。

「外に、お客らしいが……」

と、友松は尼の注意をひくように呟いたが、尼は、意にかけるふうもなく、依然、曲をつづけて、ついに終りまで弾き終ってから、やおら於通の方へ云った。

「こんな夜中に、たれであろ、出てごらんなさい」

「はい」

於通は、やがてもどって来て、

「たれか余人がおるらしいから、名はいえぬ、禅尼どのに、お目にかかればわかる――というて、上方の武家らしきお人、従者三名ほどをつれ、馬二頭ひいて立っておりまする」

と告げた。

尼は、存外きつく首をふって、

「夜中、名もつげぬお方にお会いはできぬ。ここは尼院、宿ならほかへお求め下さいと仰っしゃい」

「ハイ」

と、また於通は立ってゆき、こんどはなかなかてまどって、何か押し問答に会っているらしい。

友松は、膳の前を離れた。

「思わず長座しました。上方の武辺と聞いては、事面倒、お尋ね者は、逃げ出すとしましょう。……ああよい半日を過ごさせていただいた」

「まあ、よいではございませぬか」

「いやいや、ほろりと、よい頃、夜梅を見ながら寝に帰ります」

「そうですか」

と、尼は自身、送って出た。