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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
「うむ……それ程にいうならば」
と、左衛門もいやいやながら承知した。
「――会うだけは、会うてみよう。では、羽柴の密使とやらを、すぐここへ通して来い」
すぐといっても、それから小半刻はかかった。
ふたりの禅僧と、ひとりの山伏ていの男が、やがて客室に案内されてきた。室には、平服の左衛門のほか、たれもいなかった。しかし、武者隠しの小ぶすまの内には、屈強なる侍が、万一に備えていることは、どこの城内においてであろうと、普通なこととされていた。
「羽柴どののお使いとはお身たちか」
「左様で――」
と、三名は礼儀をとった。山伏ていの男が正使、禅僧のひとりが副使。羽柴秀吉の臣、武藤清左衛門と大心院の漸蔵主ですと告げた。
ここへ、秀吉からの派使は、これで二回目だった。第一回は、秀吉方として、明らかに失敗し、沢井左衛門のその折の返辞としては、
(たとえ、どういう好条件でも、羽柴方に味方する意志はない。自分はあくまで主恩のある北畠信雄様と行動を共にする。もし信雄様を離れるほどなら、秀吉ずれの乱臣賊子の仲間入りするより、将来の大器と尊敬している徳川家康どのへ従うだろう)
と、いってやった。