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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「徳川どのは御当家のような潔白な家からも、仮借なく、質人を召されて行った。北畠どのは、反対に、二心なき者へは、取っておかれた質人も、お帰しなさる」

家中の一部は、この対照に、不平をもらした。けれど左衛門は、

「苦情をいう筋目はない。要は、おたがいお味方のむすびが強固になれば共によいのだ。大垣と岐阜の二城は、この黒田と、木曾、長良の両川をへだてて、ちょうど三角対峙をなし、彼ら父子の向背は、油断ならず思われていたが、信雄様が、この際、池田父子を信じて、その質人をお返しになったのは、まことに御賢明なといわねばならぬ。またそれだけの信頼を見極めて、わざとお返しになったものであろう。――さすれば、当城にとっても、大きな不安が去ったというもの。お味方全体にとっても、よろこぶべきだ」

と、あくまで彼は善意に解した。というよりも、彼の性格どおりに解した。

ところが、詭謀反覆は今の世のならい、こういう一方的な見解ほど危ないものはない。

十三日のことだった。

――その十三日は、家康と信雄とが、清洲に落ち会って、重大な密議をしていた日でもある。真夜半ちかい頃。

「諜報の者です。