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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
紀伊守之助は、充分、心得顔にうなずいてみせたが、その燃えやすい眸の若さは、父親の眼に、まだまだ心もとない乳臭児を思わせるものとみえ、
(ゆめ、怠るなよ。しかも密にだぞ。……その時にいたるまでは、たとえ家中の者たりと、密かな上にも密かにせいよ)
くれぐれも、その耳もとへ、いいきかせて、遠くもない岐阜城へ、何事なのか、あわただしく出立させた。
が――翌十三日のたそがれには、勝入の考えが何であったか、紀伊守がなぜ前日岐阜へ急いだか、すべてはかくれなく知れた。大垣の城内だけには知れ渡っていた。
突如。
陣触れが出たのである。
家中には、寝耳に水であった。
令は“犬山へ――”とある。
ごッた返している中に、武者ぶるいをわめいている若者ばらの多い武者溜りへ、籠手の革紐を結び結び姿を見せた一部将は、
「今夜のうちに、犬山を乗っ取るのだ」
と、土気いろを帯びた顔して云った。
強度な緊張は、顔色を異様にする。強がりをいっている者ほどそうである。そしてかかる火急の出陣令の場合には、身につけまとう物の具さえ、常に似ず、間違いをやりやすい。
静かなのは、さすがに、主将勝入の居室だった。