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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

それを覚らぬのも、家康の感じている気の毒さのひとつであるが、もっと一般的な見方でいえば、家康のごとき、また、秀吉のごとき人物の時をひとしゅうして東西にならび立った時代に彼が置かれたことそれ自体が、すでに約された不幸児の運命といえる。――しかも彼はその家康なるものを、無二の同情者、理解者、絶対な味方と信じて疑わないのであった。

「なんの、馳走はこれからです。おつかれもおわそうが、信雄が心からな献立です。徳川どのへよする敬意と信頼を盛ったものと、召し上がられなくば、眺めてだけでも、お酌みください。……春の夜、まだまだ寝所に別れるのは、名残惜しい」

信雄として接待の最善を尽くそうとするつもりである。が、ここでなくとも、家康はあまり宴楽に興味がない。日頃、彼が主催して、客や家中にする酒宴も、彼には実はおつとめだった。

「いや、中将さま、殿はもう御酒はまいれませぬ。あの通りなお顔……お杯はひとつわれらの方へ」

侍坐の酒井、奥平、本多などの輩は、主人が生欠伸をこらえているていを察し、信雄の度の過ぎた好意をこう防ぎにかかった。

が、信雄はまだ主賓の有難迷惑に気がつかない。