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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
主賓の眠たげな様子はなお彼の見当ちがいな努力と気づかいになって行った。彼が、家臣に何かささやくと、忽ち、正面の大襖が除かれ、二次の馳走として用意されていた猿楽役者が、楽器を調え、扮装をこらし、待ち控えていて、すぐ狂言舞を演じはじめた。
家康には毎度の趣向である。が、彼は辛抱づよい面持で折には興じ入ってる風をみせ、折には笑い、終ると一緒に手をたたいたりした。
彼の側臣たちは、それをしおに家康の袖を引いて、寝所へ入られては――とソッと合図をしたが、そのいとまもなく、次の瞬間には、大がかりな鳴物と共に、ひとりのひょうげた男が出てきて、
「これからこよいの貴賓のために、近ごろ都はいうもおろか鄙にまで聞え渡った於国歌舞伎をごらんにいれまする。そもそもこの於国歌舞伎となん申しはべる歌舞の由来は……」
と、頗る饒舌にしゃべり出した。出雲の巫女が神社舞に世の嗜好と時粧を加味し、それに従来の猿若や幸若舞を織りまぜておもしろおかしく仕組んで諸国を打って廻ったのが、はからずも各地で大受けをとり、都には先年の天正十一年初めて四条の河原で興行し、連日の大当りをつづけ――などとこの新興歌劇の紹介一くさりをやって、その男がひらりと几帳の蔭にかくれると、数人の美人が出て、舞い唄い、歌劇の恋の筋が高調したところへ、評判の於国という主役があらわれ