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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
(これは、秀吉の人がらが、おのずと作り出したものの一つだ)
家康はそう思った。秀吉的政治は、前の信長的な強圧主義を一変し、室町時代のつねに暗い感じをも急速に明るくしてきた。敏感な庶民の本能は、強圧や暗いものがのしかかっているうちは、陰性にそれを出しても、こう陽性には決してあらわさないものだ。――この新しい歌劇が西国から興って京に流行し東海方面にまで波及してきたのは、これは形をかえた一つの秀吉攻勢の浸透とも見ないわけにゆかない――とも家康は考えていた。
「――中将どの。殿にはもうお眠いと仰っしゃっておられるが」
於国に見とれている信雄へ、徳川の奥平九八郎がわざと露骨に云った。
「え。お眠い?」
と、信雄はにわかに恐縮し、倉皇として自身案内に立って家康を寝殿の渡り廊下まで見送った。於国歌舞伎はまだ終ってない中途であったので、それからもまだ音曲のバイオラや笛太鼓が遠くに聞えていた。
あくる朝――十四日、信雄としては例外な早起きをして、客殿へ行ってみると、家康はもうとくに朝の新鮮な顔つきをもって、侍臣たちと雑談していた。
「御朝食は?」
と、わが家の者にきくと、もうとくにおすみです、と聞いて、信雄はちょっと恥かしい顔をした。