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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「あッ? 女が」

そのとき、かの女のうしろで、男どもの声がした。

男どもこそ、驚いたふうだったが、かの女とて、やはり、びっくりしたらしく、うしろの蘆間の土手をふりむいた。

物見隊の兵らしく、みな槍をもち、銃をもち、甲虫みたいに武装したのが、ひとしく、かの女のもつ処女のうつくしさに眼を奪られて、しばらくは、ただ見まもっていた。

やがて。

七、八人の物見の小隊は、かの女をとりかこんで、口々に、質問しだした。

「おまえは、どこの者だ。――たれのむすめか」

「こんな所で、何をしておったか」

かの女は、悪びれもせず、素直に答えた。

「はい。……もう四日も迷いあるいたので、くたびれ果てて休んでおりました」

「どこから、どこへ行くつもりで?」

「家は、岐阜と大垣のあいだの、小野の里でございます。その小野を出て、稲葉山の裏道で、連れの者と、待ちあわせる約束をしたのに、どうしたのか、その男がもどって来ませぬ……」

「男? なんだい、それは」

「乳母の息子です」

「その息子どのと、いったい、どこへ行く約束をしたのだ」

「京都へ」

「――京都へ?」

「ええ」

「ふウ……ん」

と、みな感心したり、クスクス笑い出したりした。