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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

――陣中に、その身なりでは、歩行にも不便、兵どもの眼にもよくない。……よいか、控えにおる間に、着せかえてやってくれよ」

女にあまいことは、いまさらつつむ必要もない勝入なので、人前もなく、秀吉はいいつけた。

みな去った。

勝入と、秀吉と、ふたりきりの室となった。

室は、本丸の広間である。見とおしなので、見張りもいらない。

「折入ってとは……。勝入、何ごとじゃの」

「実は、そのため、御本陣へおたずねせんと、思っていましたが」

「ここでいい。何なと、うけたまわろう」

「ほかでもおざらぬが、今日、御巡視になられて、もはやお考えは、おきまりのことと存ずるが、家康の小牧の備えは、さすがでは、おざるまいか」

「いや、見事よ、あれほどな築塁と布陣は、まず、家康ならでは、こう短時日に、出来しうるものはあるまい」

「てまえも、幾たびか、馬をめぐらし、小牧附近を、見まわりましたが、あれへ攻めかかるべき手だては、とんとありませぬ」

「にらみ合いだの。型のとおりに――」

「家康も、相手が相手とおもうて、大事をとり、お味方も、名だたる徳川勢との初めての決戦なれば――と、自然、かくのごとき、ねめ合いの対局と相成りました」