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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

すると、青鷺の一人が、

「やっ、今のは?」

と、道から林の中へ、脱兎のように、駈けこんだ人影をみとめて、

「怪しいぞ」

と、ほかの者へ注意した。

「いや、ただの百姓が、おれたちを怖れて逃げたのだ」

という者があり、また、

「いや、女らしかった」

「いや、敵兵かもしれない」

など、まちまちだったが、三蔵は、

「捕まえてみれば分る。むだでも何でも、捕まえてみろ」

と、自分も、まッ先に、林の中へとびこんだ。

あなた、こなた、鹿を狩るように追いまわした。ついに、かの女は、捕えられた。

「この百姓女めが」

「なんで逃げまわったか」

「何か、おそれるわけがあるから逃げたにちがいない。つつまず申せ」

「いわねば、裸にするぞ」

青鷺組に取りかこまれて、この女は、ぺたんと大地に坐っていた。唖のように、白い顔を、振って見せるだけだ。

「おやっ……?」

三蔵が、ふいに、どなった。

星明りをすかして、じっと顔へ顔を近づけ、われを忘れて、また叫んだ。

「これや、於通だ。……おめえは、於通じゃねえか」

仲間の青鷺達は、意外な顔して、

「三蔵。おめえは、この女を、知っているのか」

「知ってるどころの沙汰じゃあねえ! この女あ、おれのいいなずけなんだ」