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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

勝入は、聟の武蔵守と、協議の末、さいごの――祐福寺、明智の線をえらんで、庄内川を渡りはじめた。

軍団は、三縦隊にわかれ、諏訪ヶ原、平子山のふもと、印場とすすんで、矢田川をこえ、さらに、香流川を渡って、長久手の原へかかった。

ここにまた、一城がある。

徳川の麾下、加藤忠景、丹羽氏重のふたりが、士卒わずか二百三十名ほどで守っている、岩崎の城であった。

「捨ててゆけ、捨ててゆけ。こんな、とるにも足らぬ小城に、道草すな」

勝入も武蔵守も、眼の中のゴミほどにもせず、横に見て、通りかけた。

しかし、城中からは、バリバリ撃ちあびせてきた。その一発の弾は、勝入の馬の横腹に中った。

馬は、いなないて、竿立ちになり、勝入は、落馬しかけた。

「ちえッ、小癪な」

と、勝入は、怒りをこめたムチをあげて、第一隊の将士へ、大喝をかけた。

「あの小城、踏みつぶせ」

潜行軍初めての戦闘がゆるされた。――犬山を出て以来、夜も日も、たえず密かに密かにとばかり腕をさすって通って来たともがらは、その号令に、わっと答えた。

鬱ぼつが、発したのである。

片桐半右衛門、伊木忠次。

ふたりの部将が、それぞれ約千人ほどの部下をひきいて、城へ突進した。