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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
評議はまちまち。事態は急である。もし、人々が自我にとらわれていたら、機会は、その人たちのあらゆる考えをみな振りすてて去りかねない。
そのとき、この紛論に、あいそをつかして、慨然と、席を突っ立った一将がある。本多平八郎忠勝だった。
「議論か。いや、議論ずきは大いにしゃべり合っているがいい。この方は、安閑と、こうしてはおられぬ。――おさきへ御免」
かれは、口ベタで、意志の男であった。めんどうくさくなったとみえる。
いたずらに、我説を固持して、論争の陣を張っていた酒井忠次も石川数正も、かれが憤然と席を蹴ったすがたに、眼をみはって、
「平八郎。どこへ行くか」
と、あわててたずねた。
本多平八郎は、ふり向いて、
「この方は、子飼いからの、殿の家人でござる。この期にあたって、殿のおそばへ参るよりほか、行く所はござらぬ」
と、何かふかく思いきめたように云い放った。
「待て」
と、数正は、単なるかれの血気と見たらしく、手をあげて、制した。
「われらは、殿より小牧の留守をこそ命ぜられたが、勝手にうごけとは、命ぜられておらぬ。まずまず、落着かれい」
忠次も、一しょになって、たしなめた。