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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

中庸

秀吉は、その時、従四位下の参議であった。彼は、年下の家康に、自分以上の位階を取做しても、なおかつ、ここしばしは、家康の歓心をつなぐことをもって、最善の方策としていた。

かくて、その年十二月には、予定のとおり、彼は、宝寺城の旧居を払って、摂津大坂の新たなる大城に移り住んだ。

中庸

左近衛権中将三河守家康は、強健な胃ぶくろのように、腹いっぱい食い溜めたものを、この半年は、――去年天正十年の下半期から、ことし十一年の上半期にわたる一年の収穫を、――悠々とただ消化するだけに留めていた。

彼は、風貌からして、のっそり坊に見えた。

首が、猪首である。からだは肥えていた。顎が厚く、耳が大きい。

――徳川家康ほど、をかしき人はなし。下腹ふくれておはす故みづから下帯しむることかなはず、侍女共にうち任せ結ばしめらるる。

このたぐひさまざまにて、すべて云ひ立つれば、おほやう過ぎたる大名なり。

当時のものの本などにもそんな風に書かれていた。いささかの鋭さもない、怜悧なふうもない。

鈍重で、田舎臭くさえ見える大将だった。いや、そう見せているところに、彼の真面目はあった。

しかし、信長の死後、忽ち、甲信に兵を入れて、宿望の地を拡大し、二女の徳姫を北条氏直へ嫁がせて、その小田原とは矛を収め、