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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
名門禍
「良策だが。……さて、あのお公達の、近頃の権式張りでは、どうあろうかな」
「お誘いは、氏郷がよきに計らいまする」
名門禍
きのうは、おもしろく、きょうは、おもしろくなく、信雄の心は、常に、平らかでなかった。
また、それが、何に起因するかを、反省してみるような人でもない。
昨秋、伊勢長島城に移って、伊賀、伊勢、尾張三州で百七万石の封を持ち、位官は従四位下右近衛中将。出づれば群臣伏し、退けば管絃迎え、欲して行われぬことなく、しかも年歯はこの春をもって、未だわずか二十七歳。名門の子の不幸は、名門の子が好みそうな、そういう諸条件の揃っている中にあったが、信雄としては、なお意に満たぬものがある。
「伊勢は田舎じゃ」――と。
そして、去年から、おもしろくなさそうなことは、
「筑前は、何で大坂に、あのような途方もない大城を築くのか。己れが住むつもりか、或いは、天下の世嗣を迎えるつもりか」
であった。
その口吻のうちには、今もって、この人のあたまには、亡父信長がものを云っていた。――その精神はなく、形だけがあった。父の衣鉢はうけず、勢威だけを受ける気でいた。
その眼で、大坂を見る、秀吉を眺める。