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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

京都までの途、殊に退屈、話しながら参ろうよ」

と、いうのである。

数正は、恐縮したが、

「御意にあまえて」

と、そこからは轡を並べて、話し相手になっていた。

沿道の衆目から仰げば、恐らくこれは、秀吉が数正を京都まで送って行くかのような景観となっていたろう。――が、秀吉は、いっこう無頓着の容子で、

「この地にあって、京都への出入りは、何とも、不便でならぬよ。往き来の時間の費えも勿体ない。……で、年内には大坂表へ居を移し、浪華と京都とを緊密なる一環の府として、諸事、そこで司ろうと思う」

などと、大坂築城の抱負の片鱗を語ったりした。

「大坂とは、よい地を相されました。信長公にも、御生前多年、大坂をお望みであったように伺っておりましたが」

「当時なお本願寺の法城堅く、やむなく安土を選まれたが、御本意は大坂であったやも知れぬ」

「それが今日においては、彼処の御普請と聞くや、諸州を挙げて、石を運び材を寄せ、むしろ下命をよろこんで、昼夜、御工事を孜々と競いおるとの由。……偏えに御威徳と申すものでしょう」

「なんの、何事も機運じゃよ。浪華の地のそうなる機が、今日、熟して来たというに過ぎぬ」