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にちにちへいあん
日日平安
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页
三人は追って来なかった、「火事だ」とか「水だ水だ」という叫び声が聞える。もちろん火を消すほうが大事だろう、――菅田平野が石燈籠のところで振返ると、屋根と庇のあいだから灰色の煙が吹きだして、雨の中へとたなびき流れるのが見えた。
「これならわかるだろう」彼は煙を眺めながらつぶやいた、「――雨が邪魔だが、このくらい煙があがれば外から見えるに違いない」
廊下は人の駆けまわる足音や、わめき叫ぶ声でもみ返している。菅田平野は土蔵のほうへ振返った。すると、例のまん中にある土蔵の前に、中年の侍がいて、観音開きをあけようとしているのが見えた。
菅田平野は「あ」といって走りだした。
疑う余地はない。かれらは大事出来とみて、その中にいる人物をよそへ移すか、またはその場で片づけるつもりだろう。菅田平野は走りながら旅嚢と燧袋を投げだし、
「待て、その蔵に手をつけるな」
と、叫んだ。相手はこっちへ振向いた。そして、さっととびのいて刀を抜いた。
菅田平野はおどりかかった。抜いたまま持っていた刀を上段にふりあげ、走っていった勢いで真向から斬りつけた。相手は大きく脇へかわした。菅田平野はむろん相手を斬るつもりはない、井坂十郎太たちが討入って来るまで、その土蔵を守っていればいい、――相手にかわされた彼は、三間あまり駆けぬけ、追い打ちに備えて、