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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

刀を横に払いながら振返った。ところが、振返ったとたんに足が滑り、前のめりに烈しく転んだ。はね起きようとして眼をあげると、意外に近く、相手の殺到して来る姿が見えた。

相手は大喝したらしい、声は聞えなかったが、口と両眼をいっぱいにあけ、充血した顔に歯を剥き出し、そうして刀を打ちおろしながら踏み込んで来る。その姿ぜんたいが、こちらの眼にはほとんど十倍の大きさにみえ、思わず眼をつむりながら(夢中で)地面の上を毬のように転げた。

そのとき寺田乙三郎が走せつけた。寺田とほかに二人、徒士組の若侍とで、三人はつぶてのように走って来、呶号しながら相手をとり囲んだ。

「斬ってはいけない」菅田平野は立ちあがりながら叫んだ、「――斬ってはいけません、陸田さんはその土蔵の中にいます、もうこっちのものですから」

彼は泥まみれで、口の中にまで泥が入ったので、それを吐き出しながら向うを見た。家の中の障子が乱暴にあけ放されて、井坂十郎太と他に三人ばかり、抜刀を持って廊下へ出て来るのが見えた。

――完全な成功だ。

と菅田平野は心の中でつぶやいた。

――おれの策戦は完璧だったぞ。

十

正しく、菅田平野の策戦は成功した。