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にほんのでんせつ

日本の伝説

柳田 国男

「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页

青空文庫

四百年ばかり前に、ある学者がこの寺に頼まれて書いた文章には、大昔日本武尊が、ここに来て狩りをなされ、渇きをお覚えなされたが水がないので、弓※をもって岩をおさしになると清い泉が湧いた。それがこの井戸であると誌しております。近頃はもう水も出なくなりましたが、以前は村の者が非常に尊敬していた井戸で、穢れのあるものがもしこれを汲もうとすると、俄に水の色が濁ってしまうとまで信じていたそうであります。(張州府志。愛知県知多郡東浦村生路)

これと同じような伝説は、他の地方に数多くありまして、ただ関係した人の名が違っているばかりであります。関東などで一番多くいうのは、八幡太郎義家であります。軍の半に水が得られないので、神に念じ、弓をもって岩に突き、また矢を土の上にさすと、それから泉が流れて士卒ことごとく渇を癒やした。よってこれを神水として感謝のため神の御社を建てて永く祀ったといって、その神も多くは八幡様であります。小高い所から泉の湧く場合には、大抵は土が早く流れて岩が現れて来ますので、一そう普通の人間の力では、見出すことが出来なかったように想像する者が多くなったことなのかと思います。