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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

立山の亡者宿

一

小八はやっと目ざした宿屋へ着いた。主翁と婢が出て来てこの壮い旅人を愛想よく迎えた。婢は裏山から引いた筧の水を汲んで来てそれを足盥に入れ、旅人の草鞋擦のした蒼白い足を洗ってやった。

青葉に黒味の強くなる比のことで日中は暑かったが、立山の麓になったこの宿屋では陽が入ると涼しすぎる程の陽気であった。小八は座敷へあがるなり婢が来て湯に入れと云うので、云うなりに湯殿へ往って湯に入り、濡れた手拭で顔を拭き拭き己の室へ帰るとすぐ主翁が来た。

「お客さんは何方からお出でになりました」

「私は江戸から来た」

「お山へお登りになりますか」

「私は逢いたい亡者があって、此方へ来て頼めば、逢わしてくれると云うことを聞いたから、それでやって来たのだが、ほんとうに逢うことができるだろうか」

「この立山には、地獄と極楽があって、亡者が皆集まっておりますから、逢いたければ逢うことができます」

「どうしたら逢えるだろう」

「それには方式がありますから、私がやってあげますが、逢うと申しましても、この世の人でない者に逢うことでございますから、詞をかけてはなりません。詞でもかけようものなら、姿が消えてしまって、二度と、もう見ることはできません」