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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

住職は口をもぐもぐさすのみで何も云えなかった。

「もし、面倒なことが起れば、俺が盗んで往ったと云えばいい」

住職は小さな唸るような声をだした。

「おい、甚六、これを持って往け」と、監物は背後の方を揮り返った。

「はい」

頬髯の生えた熊のような顔をした臣の一人は、ずっと寄って往って、隻手を延べて不動の木像の首のあたりを掴んだ。

住職は小さな声で念仏を始めた。

監物の一行はその夜戸波の村役人の家へ一泊した。村役人の表座敷には遅くまで灯が灯って、監物一行が酒の饗応になっていた。

「彼の時の坊主の顔と云ったら、なかったぞ」

酔の廻った監物はこう云って床の間の方を見た。微暗い蝋燭の光を受けて不動の木像が立っている。

「坊主にはちと気の毒であったが、彼の不動奴、ちょっと面白い恰好じゃないか、なるほど、運慶か湛慶であろうよ」

その時監物の耳に怪しい物の音が聞えた。監物は耳をかたむけた。

とん、とん、とん、とん、……

それは陣太鼓の遠音であった。

「彼の音が、彼の音が聞えるか」

監物は右の手をあげてその手の掌で、皆の呼吸を押しつけるようにした。

「聞えるか」

臣の耳には裏山の林に吹きつける風の音が聞えるばかりであった。