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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

「何も聞えません」と、臣の一人が云った。

「そうか、俺の耳には陣太鼓の音が聞えたが」

監物はまた耳をすましたが風の音より他にもう何も聞えなかった。

「陣太鼓のように思ったが、空耳であった、考えてみれば今の世に、陣太鼓の鳴ることもないて」

監物は忌いましそうな顔をして、膳の上の盃を執ってぐっと一呼吸に飲んで、また不動の方に眼をやった。赤い紅蓮のような焔が不動の木像を中心にして炎々と燃えあがって見えた。

「あ」

監物が驚いて声をたてた時には、焔の光は無くなって床の間は元のように微暗い蝋燭の光が弱よわと射していた。監物は眼の勢であったなと思った。朝になって皆が手水を使って朝飯の膳に向ったところで、臣の一人が隣にいた朋輩の一人に話しかけた。

「昨夜、おかしな夢を見たよ」

「どんな夢じゃ」

「どんな夢と云うて、それは不思議な夢じゃよ、背の高い色の煤黒い、大きな男が、空中を馬に乗って、俺の傍をぐるぐると飛び歩いたが、その男の体からは、一面に真紅な火が燃えていて、物凄かったよ」

「なに、火が燃えていた、俺も火の夢を見たよ、なんでも俺が歩いていると、火の団が、其処からも此処からも、一面に飛んで来るので、俺はその火に触るまいと思うて、彼方によけ、此方によけ、それをよけるに困ったよ」