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あねがわのかっせん

日本合戦譚

菊池 寛

菊池寛『日本合戦譚』。同一底本的分册已合并为一书。收入:姉川合戦、厳島合戦、川中島合戦、田原坂合戦、長篠合戦、賤ヶ岳合戦、碧蹄館の戦、島原の乱、山崎合戦、鳥羽伏見の戦、大阪夏之陣、真田幸村、応仁の乱、四条畷の戦、小田原陣。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,771 字 · 313 页

青空文庫

ともすれば懶い駘蕩たる春霞の中にあって、十万七千の包囲軍はひしひしと犇き合って小田原城に迫って居る。

酒匂川を渡って城東には徳川家康の兵三万人、城北荻窪村には羽柴秀次、秀勝の二万人、城西水之尾附近には宇喜多秀家の八千人、城南湯本口には池田輝政、堀秀政等の大軍が石垣山から早川村に陣を布いて居る。その上、相模湾には水軍の諸将が警備の任につき、今や小田原城は完全な四面包囲を受けて居る。此の時北条方にとって憎む可き裏切者が出た。即ち宿老松田憲秀であって、密使を早雲寺の秀吉に発し、小田原城の西南、笠懸山に本営を進むべきことを説いて居る。そこで秀吉が実地検分してみると、小田原城を真下に見下して、本陣としては実に絶好の地だ。よいと思ったら何事にも機敏な秀吉のことだから、直ちに陣営の塀や櫓を白紙で張り立て、前面の杉林を切払って模擬城を築いた。一夜明けて小田原城から見ると、石坦を築き、白壁をつけた堂々たる敵営が聳えて居るのだから、随分面喰っただろうと思う。

「凡人の態ならず、秀吉は天魔の化身にや」

と驚いて居る時、秀吉は既に此処に移転して、「啼たつよ北条山の郭公」と口吟んで、涼しい顔をして居た。