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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
萱笠
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,885 字 · 27 页
四
そう決心したあきつは、家へはさりげなく云い繕ろって、吉村の住居へとでかけていった。
「ああ来て下すったのね」吉村の母はあいそよく迎えて呉れた、「……さあ狭いところですがあがって下さい、遠慮な者は誰もいません、わたし独りですから」
四
吉村の母のより女は手ずから茶を淹れ、煎麦を菓子に添えてもてなして呉れた。おなじような狭い足軽長屋だったけれど、柱も敷板も窓框も、みな艶つやと鼈甲色に拭きこんであり、きちんと置かれた道具類も高価な品ではないが、たいせつにされてきた年月の証しのように、どんな高価な物も及ばぬ深い重おもしい光を湛えている、それは見ているだけでもしんと心のおちつく感じだった。――なんという羨やましいお嗜なみだろう、あきつは忘れていた自分の家へでも帰ったような、殆んど懐かしいと云いたい気持でそう思った。
「誰から聞いたかということは申さぬことにしましょう」やがて、吉村の母はそういいだした、「……けれど聞いたままにはして置けないことなので、失礼ですが来て頂きました、あなたご自身のお考を伺がってから、太田どのへは改めて話すことにしたいと思いましてね、あきつさん、……あのはなしは本当なのですか」