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はるがくるまえ
春がくる前
小川 未明
「まなびの友」1921(大正10)年3月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,341 字 · 5 页
いくらお友だちが、いい生活をしてもうらやみなさるな。帰りには、またきっと立ち寄ってください。」と、木はいいました。
「そんなら、いってきます。」といって、若いうぐいすは、灰色の空をあちらへと、町の方をさして姿を消してしまったのであります。
また、木は独りぼっちとなりました。
どこを見ても真っ白な雪が積もっていました。そして、絶えず寒い風が吹いて、身震いせずにはいられなかったのです。夜になると、星の光がものすごく頭の上を照らしました。
明くる日から、木は、幼いうぐいすのことが気にかかってなりませんでした。無事でいようか、人間に捕まりはしないかと、木は年をとっていましたので、いろいろのことが案じられてなりませんでした。
うぐいすは、町にいって、高い煙突を見ました。車のゆくのを見ました。火の見やぐらを見ました。いろいろなものを見ました。そして、垣根や、軒端に身を隠して、仲間のいる家をのぞきました。すると障子のはまった箱の中に入って、仲間がうたっていました。けれど、その箱はばかに狭く窮屈であったのです。なんだか、そのなき声に、聞き覚えがあったようでした。もう気が詰まるように感じて、そんなことをも考える余裕もなく、ふたたび野原の方を指して飛んできました。