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ひるのはなび

昼の花火

山川 方夫

「三田文学 第四七三巻第一号」三田文学会、1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,030 字 · 15 页

青空文庫

観客たちのどよめきが、スタンド中に波紋のようにひろがり、大きくなる。フィールドには誰もいない。シート・ノックは終ったのだ。

「はじまったの?」

「いや。練習が終ったの」

「まだはじまらないの?」

「うん。サイレンが鳴らなきゃ、はじまらない」

興をそがれたように、女は黙った。二人は沈黙して、グラウンドの焦茶を甦らせて引かれて行く、灰白のラインに見入っていた。

奇妙にしずかな緊張が感じられた。そのせいか、女は小さな声でいった。

「あなたの学校の試合、この次ですって?」

「そう。今日は二試合だから」

納得したふうにうなずき、一言、女はいった。

「待つのって、くたびれるわ」

彼は笑った。

「もうすぐだよ」

女は繰り返した。呟く、というのでもなかった。

「……つらいわ。待つのって」

「なにがさ」

「私、この秋に結婚するの。……試合がすんでから、いうつもりだったけれど」

「……でも、それがどうしたっての?」

彼は笑っていた。

女は、ふたたび黙った。

二人は、グラウンド中にどよもす、他校の校歌の斉唱のうちに、二箇の人形のようにじっとしていた。

彼には意外だった。――女の結婚の話も。それを告げられた瞬間、急激にいきいきとしてきた、この女といることの幸福感も。