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くらいそら

暗い空

小川 未明

「早稲田文學」1908(明治41)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,106 字 · 11 页

青空文庫

さながらしんとして幾千尋の淵に臨んだ気持がする。私は驚きと怖れに魂消て、覚えず激烈な臭いのため顔を背けた。町や、沙山は目の下になっている。海が足許まで来ているように真蒼な日本海を左手に見落した。下の製造場を眺めると、家根が低く、平たく、白くなっていて自分の上って来た細い梯子は中程から霞んで消えて下の方は見えなかった。

始て私は幾十尺上って来たかと驚いた。右を見るとまたしても、太い、高い、黒い二本の烟突が目につく。私は飽迄この烟突に圧迫せられている感がする。この時下の方で頻りと叫く声が耳に入る――何しろ沖から吹く風の強いのと、石油の臭いが烈しいので気が気でなく、目が昏んで空耳のようにも思われた。

「ヤーイ。」という声が微かに聞えた。危うく梯子に捉まって――まだ上り切るまでには三四段残っている――怖る怖る下を見ると黒く見えるのは人のようだ。その黒いものはだんだん梯子を上って来るように見えた。

失策たな! と思ったが今はそれどころでない、全く私の身は行き詰っていたので、最後に何うなるか考える余地もなかった。……

もう私は気が気でなかった。

梯子を上って来る人の姿は黒く、小さく、豆のようで、まだその顔すら見えるには暇があったが私の目にはありありと、顔色の土黒い、眼の険しい、瞼の赤い、口の大きな唇の厚い、出歯の黄色い