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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

「それから駅前の自動車の間をゆっくりゆっくり歩いて、高架線のガードの横を東京府庁の前に出まして、鍛冶橋を渡って、電車の線路伝いに弥左衛門町に這入って、カフェー・ユートピアの前に立って、赤い煉瓦の敷石を長いこと見つめておりました」

「それは何故ですか」

「何故でございましたか……何だかふらふら致しておるようでございましたが、そのうちに二階に上って行きましたから、妾共二人もあとから上って参りました」

「えっ……二人で……」

「はい……」

「見付かりませんでしたか」

「いいえ。叔父は西側の窓に近い卓子の前に坐って何かしら眼を閉じて考え込んでいるようでしたから、妾たちはその隣の室の衝立ての蔭に坐って様子を見ておりますと叔父も何かしら二皿か三皿誂えて、妾たちの居ります室のストーブのマントルピースの上をじっと凝視ておりました」

「その時にも見付けられませんでしたか」

「何か考え事に夢中になっている様子で、室の中に誰が居るか気が付かぬ風付きでございました。そうしてぼんやりとした当てなし眼をしながらぶつぶつ独言を云っておりました」

「どんな事を……」

「どんな事だか聞き取れませんでした。