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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

僕の書いたのはその方なんだが、大体失敗でした。やっぱりスリラーがいい。それか倒叙探偵小説ですね。犯人が最初からわかっていて、しかもサスペンスとスリルのあるやつに限ります」

「どうです、股野の事件は映画になりませんか」

「そうですね」克彦は、考え考え答えた。あのときの演技と、仮想犯人の行動とが、こんぐらがりそうになった。いつでも、そこをハッキリ区別して考えていなければいけない。まあ、喋りすぎないことだ。「月に照らされた窓から、被害者が助けを求めるところなんか、絵になりますね。それから、この人が」と、そばのあけみを顧みて「洋服ダンスから出てくるところ。金庫の前の格闘なんかも悪くないですね。しかし、そのほかには材料が全くありません。若し金を借りているやつが犯人でないとすると、動機さえ分らないのですからね。映画にしろと云ったって無理ですよ」

「窓のところはいい場面になるでしょうね。あなたは自分でごらんになったんだから、余計印象が深いでしょう。月光殺人事件ですかね」

(あぶない、あぶない、窓のことを余り話していると、何か気づかれるかも知れないぞ。こんな話はしないに限る)