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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

「でも、他で見られないような変な朝ね。」

東の空の大きな黒雲の影に包まれて、盲たようなだだ白い明るみが遠くまで一様に澄み切っていた。

真先に歩いていた彼は、俄に足を止めた。松林のつきる処に四五本の雑木があって、その下枝のあたりに、白いものが真円く浮出してゆらりと動いた……と思ったのは瞬間で、よく見るとだらりと垂れ下っていた。

ぞーっと身体が悚んだ。が、引き止めた息が保ちきれなくなった間際に、ほっとした。木の枝に提灯がかかってるのだった。

「どうしたの。」

黙って歩き出すと、此度は喫驚した調子の声で、

「蛇でも居たの。」

彼はやはり黙って頭を振った。何だか白茶けた気持ちになった。ぼんやり眼を挙げて眺めると、提灯は白張りの無紋だった。それが一寸変だった。

「あら、静夫さんは蛇がお嫌い?」

わざと不思議がったようなしなをした声だった。

「ええ、可笑しいほど嫌いなのよ。」と真中に居る姉が答えた。

「そう。私はどちらかというと好きな方よ。」

「蛇が!」

「ええ。もとは嫌いだったけれど、だんだん好きになるような気がするわ。一番いやなのは蚯蚓、ぬらぬらしてるから。」

蚯蚓がいやで釣が出来ない自分のことを思い出して、彼はふと振り返ってみた。