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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

七

それがなお戸外の夜の暗さを偲ばせた。此処に来て初めて、鼻をつままれても分らない闇夜を知ったという、その暗闇が室の隅々から覗いていた。

「明日も海が荒れそうですね。」

南に廻った海鳴の音をじっと聞いていた伯母が、トランプの方をそっちのけにして云った。が誰も返辞をしなかったので、伯母は一旦噤んだ口をまた開いた。

「もう二三日で九月ですね。」

滅多に海へも行かない伯母は、早くから退屈して東京へ帰りたがっていたが、俊子のためにというので、皆と共に八月一杯滞在することになっていた。その八月がもう二三日きりとなってるのだった。

「あと僅かだから、うんと遊びましょうよ。私徹夜しても構わないわ。」

だが、そういう姉の声も、昼間からの遊びに疲れはてていた。

「負けると猶更止められなくなるんですってね。」

「あら、あなたの方が負けが込んでるじゃないの。」

「そうかしら。」

点取りの表を覗き込んだ俊子の細そりした頸筋が、彼の眼の前に滑らかな皮膚を差伸べた。

七

明日東京へ帰るという日は、朝から綺麗に晴れていた。これを最後だというので、地引網にゆき、海岸をぶらつき、水にはいり、また松林の中を歩いた。