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げつめい
月明
豊島 与志雄
「新小説」1921(大正10)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页
彼はぞっとした。……が、危く喉から出かかってる声を抑えるまがあった。電燈の光りが静まり返っていた。雨のように繁く虫の声が聞えてきた。外には月が冴えてるに違いなかった。
「いやな人!……何でそんなに私の方をじっと見つめてるの。」
雑誌をぱたりと畳に伏せて、姉は身を起しながら向き直った。
「何でもありません。」
とまではよかったが……。
夜遅く、彼はふと眼を覚した。蚊帳の上の天井の所に、ぼんやりした円い明るみがあった。それが白張の提灯で、室の中がぼーっとしている。いやにひっそりしてるな、と感じた瞬間に、月の光りと変って、磁石のような執拗さで、円いのへ引きつけられてしまった。身動きが出来なくて眼を据えると、それが俊子の顔だった。真黒な瞳と真白な歯とでにっと笑った。かと思うまに、細そりした指先がその上を掠めて、円いのがゆらゆらと揺いで、ふっと消えた。しいんとなった。
一寸間があった……のは、夢とも現ともつかなかったからで、本当に眼覚めると、ぞっと総毛立って、手足の先まで冷りとした。
そのまま暫くじっとしていたが、それが、俄に恐ろしくなって、いきなり飛び起きた。