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げつめい
月明
豊島 与志雄
「新小説」1921(大正10)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页
濡れた海水着が、いつのまにかそれを一杯浴びていた。
「そんな強い風でもないのに、ひどい砂ね。」
独語った姉の言葉に、俊子は沖の方を見ながら答えた。
「だって可なり強いんでしょう、あんなに波が立ってるから。」
「それは外海の波ですもの、風がなくても高いわよ。」
だが、一処、妙に波が低くて白く捲き返さない場所が、すぐ向うに見えていた。
「あら、あすこはどうしたんでしょう。」
俊子ばかりでなく、姉もまだそれを知らなかった。
「あすこで泳ぐと面白いんですよ。」
そう云って彼は眼を円くしてみせた。
「どうして。」
「一里ぐらい沖まで持って行かれちまうんです。」
「え、沖へ?」
「潮の加減で引力が強いんです。それに乗ったが最期、沖へ流されるより外ありません。普通に、みおと云ってますが、漁夫達でさえ恐れてるくらいです。そんなのが方々にあるから、この海ではうっかり泳げません。毎年死ぬ人があるんですよ。」
「本当?」
姉が吃驚した顔をして彼の方へ向き直った。
「本当ですとも。もっと面白いことがありますよ。地引網にね、時々大きな鱶や鮫がかかってくることがあるんです。するとその腹の中から、人間の頭がよく出てくるんですって。