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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

買手が大勢来て待っていた。

「手伝った東京者に、これをくれてやるべえ。」

幅利きらしい男が大きな太刀魚をぽんと投ってくれた。

「有難うよ。また手伝うべえ。」

姉はおかしな調子で云い捨てて、まだぴんぴんしてる太刀魚を、尾でぶら下げながら飛んでいった。

「豪勢威勢のええ女っちょだなあ。」

地引が上ると漁夫達は皆機嫌がよかった。姉も機嫌がよかった。

「どう?」彼女は俊子の前に手の魚を振ってみせた。「私が海にはいってつかまえたのと同じことよ。」

「そうね。」

苦笑とも揶揄ともつかない俊子の言葉に、姉は一寸意気込んでみせた。

「私は海で鍛えた真黒な人達の間に交って、その生活を味うのが好きよ。あなたはもっと元気にならなくては、折角海に来た甲斐がないわよ。松原を歩いたり海岸をぶらついたりするきりでは、つまらないじゃないの。」

「私には、馴れないせいか、自然の方が面白いような気がするわ。」

「どうして。」

「どうしてって、云ってみれば、海には海の大きな霊といったようなものが感じられるから。」

「また例のロマンチックが初ったのね。」

「そうじゃないわよ。私此処に来てはじめて、海には海の霊があることを、どうしても否定出来ない気がしてきたのよ。