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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

四

……静夫さんはどう思って?」

彼は何と答えてよいか分らなかった。が兎に角、彼女の言葉をじっと聞いてると妙に不安になった。

「そんなことを云ってた漁夫があります。」

「そんなら、」と俊子は姉の方を向いた、「私の方が漁夫の生活によっぽどよく触れてるわけじゃなくって。」

「駄目よ、あなたのはみんな空想だから。」

「そうかしら。」

振り返ると、海は波頭に朝日の光りを受けて、沖遠くぎらぎら輝いていた。その輝きが無くなる頃から、海鳴の音が更に高まってくるのだった。

四

俊子の所謂海の霊を、彼女が最もよく感ずるらしいのは、夕方から夜にかけてであった。

彼等が借りてる別荘とも百姓家ともつかない家は、その部落と松林との境に在った。

「早く御飯にして散歩に参りましょう。」

明るいうちに夕食をして、大儀だからという伯母と女中とを残して、若い者だけで散歩に出た。

松林の裾を廻って、薩摩芋の畑の間を少し辿ると、川の岸に出る。橋を渡った向うが低い堤防をなしていて、その向うに青々とした水田が、はるか海岸の砂丘まで連る。

華かな残照が西の空に残っていた。海を渡り稲田の上を渡ってくる風が、昼間の暑気を吹き払って、遠い夕靄のうちに流れ迄んでゆく。