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あさめし
朝飯
島崎 藤村
「芸苑」1906(明治39)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,926 字 · 6 页
」
「どうも是という芸は御座いませんが、尺八ならすこしひねくったことも――」と、男は寂しそうに笑い乍ら答えた。
「むむ、尺八が吹けるね。それ見給え、そういう芸があるなら売るが可じゃないか。売るべし。売るべし。無くてさえ売ろうという今の世の中に、有っても隠して持ってるなんて、そんな君のような人があるものか。では斯うするさ――僕が今、君に尺八を買うだけの金を上げるから粗末な竹でも何でもいい、一本手に入れて、それを吹いて、それから旅をする、ということにしたまえ――兎に角これだけあったら譲って呉れるだろう――それ十銭上げる。」
斯う言って、そこに出した銀貨を男の手に握らせた。
「人の一生というものは、君、どうなるか解らない。」と自分は男の顔を熟視り乍ら言った。「これから将来、君がどんな出世をするかも知れない。僕がまた今日の君のように困らないとも限らない。まあ、君、左様じゃないか。もし君が壮大な邸宅でも構えるという時代に、僕が困って行くようなことがあったら、其時は君、宜敷頼みますぜ。」
「へへへへへ。」と男は苦笑いをした。
「いいかね。僕の言ったことを君は守らんければ不可よ。