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むらいちばんそうけいせん

村一番早慶戦

佐々木 邦

「冨士」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,468 字 · 34 页

青空文庫

しっかりするんだ」

「いや、もういけません」

いけないことは分っていた。僕は涙を零した。

「一夫さん、勉強して豪い人になって下さい」

「うむ」

「モスリンの社長さんのような人になって下さい。然うすれば東金を見返せます」

「うむ」

「東金を見返してやって下さい。俺の遺言はこれ丈けです」

「忠八、遺言なんてことはないんだ。もっと元気を出すんだ」

「いや、もう駄目です」

僕は忠八の遺言が身に沁みて、東金を見返す決心を固めた。その頃、村一番の競争が益※(二の字点、1-2-22)激しくなっていた。父も母も真剣だった。今まで押され気味の父が東京の有力者と共同で村にモスリンの会社を起した。取締役になって、度々上京する。家へ出入りの人も多い。僕が覚えてから初めての活気を呈した。村の娘達が工場で働く。これが村の潤いになるから、父は評判が好かった。もう一方東金家も作り酒屋として着々発展した。東金君のお父さんは父と違って、ナリもフリも構わない。真黒になって働く。僕は遊びに行っていて、これじゃ迚も敵わないと思ったことがある。村の連中は身上の大小で人間の値打を定める。最も興味のある話題は人の家の財産だ。