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むらいちばんそうけいせん
村一番早慶戦
佐々木 邦
「冨士」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,468 字 · 34 页
「先ずその辺だろう。注意して置く。少し控える方が宜いかも知れない」
「有難う。僕も注意して置く。この会社では頭の巨い奴よりも頭の悪い奴の機嫌を取る方が徳だから、精々やり給え」
頭の巨い原口君は同時に頭が好い。僕より三四年の先輩で矢張り早稲田出身だ。僕を無暗に贔負してくれる。
「早稲田と慶応で村一番の競争とは面白いね。必ず勝ち給え」
「その決心です」
「こゝも早慶戦だ。七光りは慶応出身だから」
「しかし途中でやめたんだそうです」
「出身さ。何遍も落第して追い出されたんだから、これこそ本当の出身だろう」
「ハッハヽヽヽ」
「早稲田は堅棒だよ。相手が社長令息だろうが何だろうが、実力で行く」
「僕もその心得です」
「しかし君は少しぼんやりしている。元来然ういう性格かい?」
「さあ」
「敵の作戦計画が些っとも分らない。もう少し目端を利かせる必要があるだろう」
「何かやっているんですか?」
「盛んに課長の家へ出入りしている。何の為めか分るかね?」
「出世の為めです」
「無論然うだが、出世をさせてくれとは頼めない。その前に段取がある」
「何でしょう? それは」
「課長に然るべき背景のある嫁を探して貰う。