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かき
柿
山本 周五郎
「現代」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页
「…………」
「しかし与吉右衛門殿はあのような御性格で、それをことごとく恥じて居られた、むろん恥じて居られたのは名聞を思ってのことで、琴女に対しては実に汚れのない、ひと筋の愛情をもって居られました、……それは遺書によく表われていると思います」
「それで、……どうせいと云うのか」
「牧野の左遷をお取消し下さい」
「…………」
大学はぎろりと眼を光らせた。
「事情がお分り下されば牧野を左遷する理由はありません、あれだけの男を鉱山役所へ追い遣るのは御家のためにも損失です」
「……辰之助が帰ると思うか」
静かな声だったが、兵馬は胸を撃たれたように息を引いた。……大学は火桶の上で手を揉みながら低い声で云った。
「辰之助を呼戻すには、仔細を明かにしなければならぬぞ、……それでもよいか」
「なにか、しかしなにか方法が」
「無い、あるなら申してみい」
兵馬はぎゅっと唇を噛んだ。大学は軽く咳をしてから、
「牧野の身分で側女の一人くらい。子を産ませたとてそれほど恥ずべきことでないのは事実だ、けれど彼はそれを恥じたのだ、与吉右衛門はそういう男だった」
「しかし辰之助の将来を叩き潰してまで隠し了せようとは思っていなかった筈です」