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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

悠二郎はそう云いかけて絶句した。

「原はもうよい、さがって呉れ」

正篤はこう云って暫く沈黙した。ひとばらいをしたのだろう、原が去るとそこには誰もいなかった。――正篤はかねて用意をしていたらしく、そこにあった小さな酒壺を取り、二つのギヤマンの足付の杯に、黒っぽい色の、濃いどろっとしたものを注いで、「おれの手作りの酒だ、おれも飲む、飲みながら話そう」

悠二郎に杯の一つを与え、自分も自分のを持った。

「おまえおれに肚を立てたろうな、無情な主人だと怨んだであろうな、――あれほど約束したことを、いよいよの時になって反故にし、あるかなきかのように扱った、怨むのが当然だ、もしおれがおまえの立場だったとしても、きっと肚を立てずにはいなかったと思う」

「正直に申上げます、御意のとおりでございました」

悠二郎はこう答えて、幾らか反抗するように、杯のものをぐっと飲んだ。野趣のある香気の、ほのかに甘渋い味であった。

「おれは悠二郎を片腕に頼むつもりでいた、それには些かもはなかった」

正篤は眼を伏せる姿勢でこう云った。

「しかしおれは考えたのだ、おまえはあまりに近し過ぎる、こちらは気がつかなかったけれども、下屋敷を二人でぬけ出したことは、新泉をはじめ多くの者が知っていた、知ってはいたが、勘右衛門に禁じられて、みな知らぬような顔をしていた