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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页
「実によく撮れましたネ」
と捨吉に言われて、お婆さんから細君へ、細君から主人へと、三人はもう一度その写真を順に廻して見た。主人は眼を細めて、可愛いくて成らないかのようにその写真に見入っていた。
「弘さん、いらっしゃい」
と捨吉が呼んだ。やがて彼は弘を自分の背中に乗せ、部屋々々を見に行った。夏らしく唐紙なぞも取除してあって、台所から玄関、茶の間の方まで見透される。茶の間は応接室がわりに成っていて、仕切場だとか大札だとか芝居茶屋の女将だとかそういう座付の連中ばかりでなくその他の客が入れ替り立ち替り訪ねて来る度に、よく捨吉が茶を運ぶところだ。彼は弘を背中に乗せたまま、茶の間から庭へ下りて見た。青桐が濃い葉影を落しているあたりに添うて一廻りすると、庭から奥座敷が見える。土蔵の上り口まで見透される。
細君は捨吉の背にある弘の方を見て、
「おや可笑しい。大きなナリをして」
と奥座敷に居て言った。
奥座敷では、午後の慰みに花骨牌が始まった。お婆さんと主人が細君の相手に成って、病後を慰め顔に一緒に小さな札を並べていた。
「弘の幼少い時分にはよくああして兄さんに負さって歩いた。